母との・・・最後の会話
平成27年、12月20日。冬とは思えないほど暖かい一日。
この日、珍しく予約のキャンセルが続き、昼前にまとまった空き時間が出来た。
ふと思い立ち、
「そうだ、施設へ行って来よう」
母は昨年の5月から地元の介護施設に入居している。
私は9月に面会に行ったのを最後に、ここしばらく行けていない。
今いかないと、正月ごろまでは時間が取れそうにないし、と
近所の花屋でシクラメンを買い求めた。
遅ればせながら10月25日に100歳となった母へのプレゼント。
10時半ごろ施設に到着。
いつもは部屋で布団にもぐりこんでいるはずの母が、
職員に付き添われ、日当たりのよい廊下で、車いすに乗って待っていてくれた。
「ほら、息子さんが見えたよ! ・・・どうぞごゆっくり」
「こんちは・・・誰だかわがっけ?」
「わがるよォ、政幸だんべな」
何時ものことだが、自分からはあまり話しだそうとはしない。
耳が少し遠いのでこちらから少し大きな声で話しかけるようにすると、
しっかりとした返事を返してくれる。
「お誕生日、おめでとう!いよいよ百歳になったね。お花、買ってきたよ♪」
「うん、百歳になったんだ、こないだな。こごでお祝いしてくれたんだワ」
兄夫婦も呼ばれて一緒にケーキを作り、食事会をしたことは聞いていました。
(ケーキに乗せるはずのイチゴを、乗せる前にパクパクとつまみ食いしていたなどと♪)
「シクラメンか。赤はキレイでいいなあ・・・。ナンボしたい?」
「3,500円」
「そうが・・・。シクラメンは育てんのが難しいんだよなァ。
水、やりすぎてもだめだし、やんなくってもだめだし・・・」
「花が終わったら、持ち帰って、来年また咲かせてきてやるよ」
いつになくよくしゃべる母の対応に、
シクラメンは春を過ぎて葉が枯れだしたら水やりを止めて、
夏眠させ、寒くなって芽が出てきたらまた水をやるようにすると、
何年も花を咲かせることができる、ということなどを話すと、
「そうが、それは知んながったな。いっつも一回でダメにしっちゃったがら・・・」
話題が途切れると、どこを見るともなしにぼんやりとしていたり、
目を閉じて顔に手を当てたりする、いつものしぐさ。
「どっか痛いとごでもあんのげ?」
「どごも痛くねえよ。たーだ、なんだがコワイんだよな~」
*コワイ=疲れていてだるい、という意味の方言。
「手が少し冷たいね」
「そうがい?自分じゃわがんねげっと・・・こごは少し寒いんだわな」
部屋の温度は服装に見合った適温に、私には感じられたが、
高齢で代謝が衰え、体温が下がっているのかも・・・?
「今度、何か暖かい、上に羽織るものを見つけてきてやるよ」
「そうだな。あったがいのがいいな」
「今は軽くて暖かいやつがいろいろ売ってっからね」
時計を見ると11時半近い。
母が良くしゃべるので、いつになく長居、長話をしてしまった。
「そろそろお昼の時間だね」
「おひるはいいんだげと、夜んなっと腹が減ってなぁ・・・」
「なんか、おやつになりそうなもの持って来てやろうか?」
「そうだな、甘いものがいいな」
「カステラみたいなヤツなら、冷蔵庫なくても悪くなんめえがら、
こごの人に聞いてみるワ。他に何か、これ食いてえ、ってものある?」
「しょっぱい漬物が、食いてえなぁ」
「漬物か・・・なんか作ってきてやるよ。
それともきゅうりのキューちゃんみたいのが、日持ちしていいかなぁ?」
「そだな、キューちゃんがいいな」
職員に確認したら、9月から3月ごろまでの冬場はノロウイルス対策のため、
飲食物の持ち込みを禁止しているとのこと。
母にそのことを伝え、
「今日はこれで帰っけど、正月にまた来っかんね」
またね、とバイバイすると、母も手を挙げて応えてくれました。
私と別れた後、母はいつものように昼も夜も自分でご飯を食べ、
眠りについたとのこと。
この日の夜半、見回りの職員が気づいた時には、
母はすでに息をしていなかったそうです。
行年101歳(満100歳と2か月)。
文字通り「ぴんぴん、ころり」の大往生でした。
母ちゃん、長い間お疲れ様でした。
先に逝った父ちゃんと、いつまでも仲良くね。
天寿まっとう、おめでとう!
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